4日目の朝がきた。
この日が最後の夜、翌日の夕方には、おがさわら丸に乗り、本土を目指す。
ある意味これが最後のチャンスだ。
にしても釣りばかりしてるなあ。せっかくだから泳ぐか。
近くの海岸からエントリー。海の中には熱帯魚やハタ達が泳いでいる。水中カメラが欲しくなった。そして、少し沖に泳ぐとなんとネムリブカに遭遇!
こちらに全く気付いてないので少し接近しながら観察。しばらくして俺に気付いたのか、さらに沖まで泳いでいった。
ドルフィンスイムでいろんな魚達と一緒に泳いだ時も楽しかったし、いつか危なく無いサメの横を一緒に泳いでみたいなあ。
陸に上がる前に亀さんと一緒に泳ぎ、陸へ。
上がって再び釣具屋にこもり、釣具屋の店主や息子さん、お客さんと話しながら過ごす。
明日でお別れなのが寂しくて、なぜか釣り場へ向かうよりこの人達としゃべっていたくなった。
いろんな人達と出会えて、今回の旅は間違いなく得るものがたくさんあった。
今日の夜、強くなった自分を奴らに見せつけてやる!!
と、その前に、昼もチョコっと。今までワームだったけど餌釣りにシフトチェンジ!
餌でも釣れるハタくん、怒ってる顔が可愛い。
1番嬉しかったのは、真っ黄色のベラ!ヤマブキベラ!ただでさえ派手な色のベラちゃんが小笠原では色違いに!綺麗だった。
たくさん満足して夕方には宿へ。
宿のロビーで宿の方や、観光客さんと談笑するのは毎日の日課になっていた。こんなに毎日顔を合わせるんだから、当たり前だろう。にしても楽しい。会話が止まらん。
『今夜も頑張ってね!』
その言葉に励まされ、今回は絶対釣り上げます!と、再度腹をくくった。
さあ、最後の夜。釣り場に行く前に会いたい方に会いに。多忙な方で、なかなか会えなかったけどようやく!
学生の時にドルフィンスイムの時に船の操縦をしてくれていた船長さん。釣りもかなりの腕らしく、勝手に師匠って呼んでました笑。
サメを釣りに来たことを話すと
『面白いやつだなー!普通食える魚だろ!でも〇〇にはよくサメがいるし、良いかもな!』
と、ツンツンしながら良い情報をくれたり良い方です。。。笑
なんとか挨拶ができ、気を取り直し最後の釣りへ。
島は静かだが、堤防には他の釣り客や、観光客で賑わっていた。
さっそく釣竿をセット。今回は体も休めたいし、集中もしたかったのでぶっ込み1本でのぞんだ。
しばらくの待ちの時間、いろんなことを考えた。行きの船での妄想は、今ではしっかりと知識と考えを持ち、どうすれば、こうされたらどう返すかをひたすら頭でシュミレーションする。
そして、ついにその時は訪れた。
『ギーーーー』
ゆったりとしたスピードで糸が出されていく。決戦の火蓋が切って落とされた。
ものすごい力でゆっくりとドラグが出て行く。フルドラグを物ともしない力で、どうする事も出来ない時間が続く。
指をスプールに当て、ドラグを増す。指が焼けていく、次第にスプールとドラグが持てないくらい熱くなる。
さっき買っていた綾鷹をかけて冷やす。
指は真っ赤になっていたが、アドレナリンが味方してそこまで痛くはなかった。
張り付いて、なおも沖に走り続けるエイ、しかし一瞬エイの体が地面から離れた!
ここを見逃さず、思いっきりリフトを掛ける。体が倒れんばかりの全力でリフト。
流石のエイもこれにはなかなか食らったのだろう。抵抗が弱まった!
リフト巻きリフト巻き、出されてリフト巻き
繰り返すにつれ、徐々に手前によってくる。
すると向こう方は闘い方を変えてきた。急に水面付近まできてジャボン!!!
跳ねてはいないがヒレを出して水面を踊った。
気を取られているうちに再び急潜水!再び糸を出されるが、抵抗力は間違いなく弱まってきている!最初の頃ほど、ドラグを出す力があちら方にはもうない。
ついに追い詰めた!!
しかし、巨大エイは最後の決死の作戦に出る。
フッ。。糸からテンションが消える、バレた?何故?
しばらくしてまだ奴は付いていることを知る。奴は最後に手前に一気に走ってきて、海水浴場付近のロープに向かって突進していった。
『まずい!!!』
竿を水の中に入れてロープでのラインブレイクを防ぐ、無理な体勢から全力で力を加えウカセにかかる。自ら海に入り竿をロープの下にくぐらせた。これでロープが糸を噛む事はない。
ついに決着の時が近付く。
エイが浮いた。身体についていたコバンザメが急いで海中に逃げていく。デカイ!!
ついに姿を現した巨大エイ。あと少し。。
しかし最後の難関、この巨大エイを岸に引っ張りあげるには階段を使ってずり上げる必要があった。
ためらいはなかった。鼻腔と口に手をはめて思いっきり重心を倒し徐々に階段を登らせる。
ついにその時は訪れた
この滞在中、何度も私の超えるべき壁として君臨し続けたこの巨大なエイ、マダラエイ。RPGの魔王が如く強靭なパワー、存在感、全てをとっても今旅の集大成に恥じない巨魚だ。
針は口にちょこんと掛かっていただけ。
返しにすら届いていなかった。
『グオォン!!!』
あり得ない声で鳴き、尻尾は振るだけで風を切る音がする。
周りには漁師さんを含むかなりのギャラリーが集まっていた。間違いなく100キロはあるとの事。まあ、そんな事よりついに壁を乗り越えた達成感、ここに来るまでの繋がりが、この魚を呼び寄せてくれた。繋がってくれた皆さんに感謝。
気付けば全く動けない、アドレナリンが切れて、指が、身体中が痛い。でも目からは嬉し涙が噴き出していた。多分痛すぎるのも含め笑
最後の力を振り絞りマダラエイと入水。疲れたエイの腹に潜り、ひたすら水を送った。しばらくして
『覚えてろよ!!』
と言い残し、海中へと消えていった、ような気がした。
嬉しすぎて、ずっと見てたせいでほとんど写真撮ってないや。
再びぶっ込み開始
マダラエイをリリースしたわずか15分ほどに強烈なアタリ!!
これもかなりの重量感!!
ただただ満身創痍でファイト。姿を見て驚いた
『ハンマーヘッドだ!!』
しかもかなりでかい、2.5はありそうだ。
しかし、その瞬間、痛恨のラインブレイク。体力不足も災いし、全くついて行くことが出来ず。また課題ができてしまった。
新しい課題は貰ったものの、今回の全てのミッションを達成し、身体中ボロボロになりながら宿へ帰宅。直ぐに眠りについた。
最終日
釣具屋に昨日の勝利を報告した。この方達のお陰で釣りが1段階上手くなれた。感謝しても、仕切れない。
『最後の釣りに行ってきな!』
笑顔で送り出された。
『行ってきます!』
言われた通り、別れも込めて、最後の海へ。
ぶっこんでいると、なんとこんな真昼間にアタリが!!
釣れたのは60弱のバラハタ。最後は小笠原の海から、美味しいご褒美。とはいえもう帰るのでお帰り頂く。
短時間釣りをして、最後は小笠原の海に一礼
釣れてくれた全ての魚、私を強くしてくれた魚達に感謝。
最後は宿の方々と、それぞれまた船で会いましょう!なんて言いながら別れる。
宿の方には
『絶対また来いよ!』
と言われた。今でもこの方とは連絡取り合ってよくしてもらっている。出会いに感謝
出航時間
島の方が見送りに来てくれる。島の思い出が蘇り、感動する瞬間だ。見送りには仲良くしていた島民もチラホラ。手を振られると、泣きそうになる。。
島が離れていくに連れ、今回の旅がフラッシュバックされていった。悲しい気持ちを押し殺して船から島をのぞみ、叫ぶ。
『行ってきます!!!』
カツオドリが本土を指して飛び始める。
各々の思い出を積んだ船は、夢の島を離れても活気が落ちる事は無かった。
この遠征を経て、私は釣りにさらなる夢を抱くようになった。島を旅する楽しさ、釣りの楽しさ、全てこの島が再確認させてくれた。
いつか必ず夢を叶えて、島の皆と、出会った仲間達と、笑いながら思い出話が出来れば良いなと思っている。
私の旅はまだまだ始まったばかりだ。
2016年、8月、小笠原諸島父島遠征 完